SIEによる「MSのアクティビジョン買収非難」は果たして真っ当な主張なのか?
以前書いていた「決着」はもう少し先に延ばすことにしました。
おそらくRDNA3の概要が出てから結論が付けられると思います。
ということで最近、流行りの買収沙汰について書いてこうと思います。
買収沙汰と言ったら「MSのアクティビジョン買収」以外ないですよね。
あれのお陰で今年起こったゲーム業界のM&Aはすべて霞むぐらいのインパクトでしたからね。
一月の発表からもうすぐで9か月近く経つのですが、最近動きがありました。
まあ、要約すると『将来的にPS版CoDがなくなるのはPSユーザーにとって悲劇』と言ってますね。
ここでSIEのCEOのジム・ライアン氏のコメントを抜粋。
「マイクロソフトは、Activisionとソニーの契約が終了したあと、3年間はPlayStationでも『コール オブ デューティ』を発売することを提案しました。20年近くPlayStationで『コール オブ デューティ』を発売してきたのですから、彼らの提案は多くの点で不十分ですし、プレイヤーに与える影響を考慮できていません。私たちは、PlayStationユーザーに最高品質の『コール オブ デューティ』をお届けし続けることを約束したいのですが、マイクロソフトの提案はその理念を損なうものです」
ここのコメントいくつか気になった点があります。
1つ目はSIEとアクティビジョンの契約についてです。
これまでも報道されてたとおり、SIEとアクティビジョンはCoDに関する優先マーケティングや時限独占DLC、Eスポーツ大会での専用プラットフォームなどさまざまな面でパートナーシップを結んでました。
SIEとアクティビジョンのパートナーシップ自体は2013年のPlaystation Meeting 2013で公表され、その時はまだアクティビジョンがパブリッシング権を持っていたBungieのDestinyの優先マーケティング権などがメインでした。
それがCoDに適用されてたのがCoD:BO3が発売された2015年です。
それまではMSがマーケティング権を保有しており、入れ替わりでSIEがCoDのマーケティング権を獲得したということになります。
この具体的な契約についての期限などは全くの発表はないですが、どうやらブルームバーグの報道では今年の「MW2」、「Warzone 2.0」を含めて3作品ということで、おそらく来年のTreyarch製のCoDまでが正式な契約の範囲内と見ていいでしょう。
ここから推測するにSIEとアクティビジョンの契約期限は2023年までと見るのが有効です。ちょうどパートナーシップ表明があったPSM2013から10年という月日が経つので割と辻褄が合うでのはないかと思います。
2つ目は『20年近くPlayStationで『コール オブ デューティ』を発売してきたのですから』という点です。これは明らかに誇張表現です。
実は歴史的に見れば一番長くCoDが発売されてるCSプラットフォームはXboxです。
PSプラットフォームで本格的にCoDが発売されたのは2006年のCoD3からですが、実はその前作CoD2はCS機だとXbox360のみです。
2005年に発売されたCoD2はXbox360版はローンチタイトルとしてリリースされ、全世界で600万本を売り上げたほどです。つまりCoDのCS展開の足掛かりがXbox360での成功だったわけです。
その後、現在の形に近いオンライン対戦システムを導入した「CoD4」やその続編の初代「MW2」ではXbox Liveにて常にトレンドに上がり、オンライン対戦の定番タイトルとして定着していきました。北米でのXbox360の売り上げがPS3よりも圧倒的だったのは当時のXbox LiveがPSNよりも快適な環境だったことや先ほど言及したMSによるCoDの優先マーケティング権があります。CoDを快適に遊べる360は忽ち大ヒットしました。
MSとしては「Halo3」や「Gears of War」などの当時はオンライン対戦タイトルに注目してたこともあって、すぐにCoDに目を付けたと思われます。
反対にSCEはPS3の立ち上げ失敗や貧弱なオンライン環境のPSNのせいでうまく立ち回れなかった背景があります。
そういう背景を考えれば。20年近くXboxで発売されて、黎明期のXbox Liveを世界最大のオンラインサービスまで押し上げた『CoD』がMSの手に渡るのはある意味感慨深いものがあります。
歴史的経緯を考えてもPSプラットフォームよりもXboxとのほうが縁が深いタイトルと言えるので、ジム氏の発言は誇張だと言えます。
3つ目は『私たちは、PlayStationユーザーに最高品質の『コール オブ デューティ』をお届けし続けることを約束したいのですが、マイクロソフトの提案はその理念を損なうものです』という点です。
これはもうハッキリと言いますが、『CoDはSIEのIPじゃないし、君らがそんなこという権利はないよね?』ということです。
PSの総責任者であるジム氏がPSユーザーを第一に考え、それに対して行動を起こすのはまず理解できますが、それは他社製のIPに口出しすることではないと言えます。
CoDはあくまでアクティビジョンの持ち物であり、SIEはあくまでマーケティング権を払って融通してもらってるだけに過ぎません。要するにビジネス上での関係です。
MSによるアクティビジョン買収はその面で言えば究極的なビジネス的解決案でした。要するに株をすべて買って経営権から何まで得るわけですからね。
それに対してPSユーザーを持ち出して感情論に訴えるのは正直理解しかねます。
そもそもの話なんですがジム・ライアン氏は『これまで遊んでくれたPSユーザーの気持ちを考えれば契約終了後3年間しかPSに出さないなんておかしいよな?』という割には
『PS時限独占コンテンツがあるのにローンチで他機種版を買ってくれたユーザーに対して申し訳ない気持ちはないのか?』とかは絶対言ってくれません。
正直、他機種ユーザーからみれば心象悪いです。
あくまでSIEのCEOとしての立場からPSユーザーを擁護する気持ちは解りますが、時限独占コンテンツなどは他機種への露骨な妨害でしかありません。
近年はサードパーティどころかMSのようなプラットフォーマーがPCゲーミングやモバイルなどCS以外へのゲーム展開が積極な中で、自社プラットフォームだけを頑なに優遇、しかもそれが他社製IPというのを見ると、ジム氏の発言には説得力がないですね。
改めて振り返るとジム氏の発言は正当性に欠けてると思いました。
どっちかというとポジショントークな側面が出てしまってるので、まあPSユーザーから見ればジム氏の発言に一理ある聞こえたかもしれませんがPC、Xbox、Switch、スマホユーザーから見れば『ん?』みたいに聞こえたかもしれません。
おそらくですが今回ばかりはジム氏もかなりショックを受けてるようだと思います。
なんせPSの強みだったこれまで培ってきたCoDの優先権とアクティビジョンという業界屈指の巨大サードを失う可能性が出てきてるわけですからね。
まあ前からジム氏は失言が多かったりでユーザーから反感を買いやすい人でもありますし、ゲーム好きでユーザーフレンドリーなフィル・スペンサー(Xboxのトップ)と違ってかなりビジネスマン的な印象が強いです。
今回のコメントも例にも漏れず同じような印象を持ちました。
また今回の発言で今後のPSでのCoD展開が明らかになる形になりました。
ただし今回のジム氏の発言は、MSからの提案を蹴ってしまった形になるので、問題なく買収完了した展開になると後はMSの裁量次第になると思われます。
規制当局がCoDの扱いについて明記する可能性もありますが現状だと不明です。
場合によっては買収完了後、契約終了後すぐにPSで出なくなる可能性も十分、有りうるわけです。MSからすれば無料のWarzoneだけをアップデートし続ければそれはそれでマルチ展開できてるわけですし、あとのCoDはすべてMS資本で作られることになりますから独占されてしまってもMSに正当性があるわけで、もうSIEからすればどうしようもありません。
買収自体を止めることは現実的に難しいと言われてますから、唯一可能なのは今からでも規制当局にロビー活動してCoDだけでもマルチ展開継続してもらうように働きかけることです。
だから今回の発言だったのかもしれませんね。
今後もジム氏の発言や動向に要注目です。